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名古屋地方裁判所 昭和42年(ワ)2958号 判決 1969年6月30日

原告

小林キク

ほか五名

被告

名古屋城西ナシヨナル工事機器株式会社

ほか一名

主文

一、被告らは各自、原告小林キクに対し金一六万二二九〇円、原告小林洋子、同小林寿々子、同小林教子、同小林邦夫に対し各金六万一一四五円宛、原告小林捨吉に対し金八万円並びに、いずれも、これに対する被告名古屋城西ナシヨナル工事機器株式会社については昭和四二年一〇月二四日以降、被告小西俊雄については同月二三日以降、各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二、原告らのその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用は五分し、その四は原告らの負担とし、その一は被告らの負担とする。

四、この判決は、原告ら勝訴の部分につき仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の申立

(原告らの申立)

一、被告らは各自、原告小林キクに対し金三一四万一八九四円、原告小林洋子、同小林寿々子、同小林教子、同小林邦夫に対しそれぞれ金一六七万〇六六五円宛、原告小林捨吉に対し金二〇万円並びに、いずれも、これに対する訴状送達の翌日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二、訴訟費用は被告らの負担とする。

三、仮執行宣言。

(被告らの申立)

一、原告らの請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告らの負担とする。

第二、当事者の主張

(原告らの請求原因)

一、被告小西俊雄(以下、被告小西という)は、昭和四二年九月四日午後九時半ごろ名古屋市中川区富田町字神田一〇一八の一番地先道路上を普通貨物自動車(名古屋四ね一七九四号)(以下、加害車という)を運転して進行していたが、飲酒運転、前方不注意、スピード違反等の各過失により、折から同所を反対方向に向つて原動機付自転車(以下、被害車という)に乗つて進行し、同所附近の三叉路を右折中の訴外亡小林政一(以下、被害者という)に衝突してはねとばし、因つて、同日午後一〇時五〇分頃被害者をして頭蓋骨破裂により死亡させた。

二、被告小西は不法行為者として、また、被告名古屋城西ナシヨナル工事機器株式会社(以下、被告会社という)は被告小西の使用者であり、かつ、加害車の所有者として自賠法三条にもとづき、各自、本件事故により被害者側に生じた損害を賠償すべき義務がある。

三、損害

(一) 被害者の逸失利益 三五二万八八一三円

被害者は当時五一才、身体健康にして訴外洞海産業株式会社四日市支店名古屋作業場に工員として勤務し、死亡直前の時点において、次の如き給与を得ていた。

昭和四二年六月 稼働日数二四日 金四万四七四七円

同年七月 同二八日 金五万一七九四円

同年八月 同二七日 金四万一一〇二円

(一ケ月平均受給額は金四万五八八一円)

また同年一二月支給予定の賞与は金三万〇二七五円であつた。それ故、一ケ年間の収入は、合計金五八万〇八四七円となるところ、その生活費は多くとも一ケ月金八〇〇〇円(被害者は生活が質素で子供より生活費ははるかに低い)であるから(年間金九万六〇〇〇円)これを控除した金四八万四八四七円が一年間の純収入となる。なお、右給与は、以後増加の予定(四二年一二月以降では月給の平均は金四万七二三八円の予定)であつたから、右四八万四八四七円の年間収入は、控え目な数字である。したがつて、被害者は、平均余命年数の範囲内たる六〇才までの九年間、毎年右の割合による得べかりし利益を失つたこととなるが、これにホフマン式計算法を施し現在価額を求めると金三五二万八八一三円となる。(484847円×7.2782)。

(二) 被害者の慰藉料 金二五〇万円

被害者は、当時、未だ成人に達しなかつた原告洋子らの子女四人の父として、子らの前途に望みを託し、一心に仕事に励み、一家の主柱となつていたのであるが、本件の事故に遭遇しこれを一瞬に失つたこと等による精神的苦痛は甚大であり、これが慰藉料額は金二五〇万円とするのが相当である。

原告キクは被害者の妻、原告洋子、同寿々子、同教子、同邦夫はその実子として右合計金六〇二万八八一三円につき、右原告らはその相続分に応じ、原告キクについては、金二〇〇万九六〇四円を、その余の原告らについてはそれぞれ金一〇〇万四八〇二円を承継取得した。

(三) 原告らの固有の慰藉料

原告キクは、幼い子女をかゝえて夫を失つたことにより、原告洋子、同寿々子、同教子、同邦夫は子として父を失つたことにより、いずれも、その精神的打撃ははかり知れないものがあり、その慰藉料額は原告キクについては金二〇〇万円、その余の右原告らについては各金一〇〇万円宛を下らない。また、原告捨吉は被害者の実父であるが、今後、頼るべき長男の被害者を失つた苦痛に対する慰藉料は金二〇万円とするのが相当である。

四、しかるところ、昭和四三年六月一四日自賠責保険金二六〇万三一三〇円が支払われたので、被害者の相続人らにその相続分に応じ、原告キクについては金八六万七七一〇円を、原告洋子、同寿々子、同教子、同邦夫につぎ各金三三万四一三三円を弁済充当した。よつて、ここに、被告ら各自に対し、原告キクは金三一四万一八九四円、原告洋子、同寿々子、同教子、同邦夫は各金一六七万〇六六五円宛、原告捨吉は金二〇万円並びに、いずれも、これに対する本件訴状送達の翌日から各完済に至るまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

(被告らの主張)

一、請求原因一の事実のうち、原告主張の日時、場所において被告小西運転にかかる加害車が、右折中の被害者運転にかかる被害車に衝突し、ために、被害者が死亡したことは認めるが、その余の事実は否認する。同二の事実については、後叙の如く被告小西は無過失であるので被告会社には責任はない。同三、四、の事実のうち原告らの身分関係は認めるもその余の事実は否認する。

二、本件事故は被害者の過失に基づいて発生したものである。すなわち、被告小西は前記場所を加害車を運転して通常速度で東進中、被害者が被害車を運転して西進し来つたのであるが、被害者は、対向車に何らの注意を払わず、かつ、一旦停車せずに、本件三叉路において急に右折の態勢をとり、加害車の眼前に迫つた。被告小西は、約一五米直前にこれを発見し、急ブレーキ、急ハンドルで衝突を避けようとしたが遂に及ばなかつたものである。以上によると、本件事故は、あげて、被害者の過失により発生したものであり、被告小西には何らの過失も存しないこと明白である。

仮りに被告小西に若干の過失が存したとしても、本件事故発生の原因の殆んどは被害者の過失に基づくものであるから、被告は過失相殺を主張する。

第三、証拠〔略〕

理由

第一、本件事故に対する判断

一、原告主張の日時・場所において被告小西運転にかかる加害車と、右折中の被害者運転の被害車とが衝突し、ために、被害者が死亡したことは当事者間に争いがない。

二、〔証拠略〕を総合すると次の事実が認められ、右各証拠中、右認定に反する部分は採用し難く、他に、これをくつがえすに足る証拠はない。

(1)  本件事故現場は名古屋市中川区富田町大字春日字神田一〇一八の一番地附近(非市街市)を東西に通ずる道路(八田街道)(幅員六・五米で歩車道の区別なく、舗装された平担にして直線、四〇粁の速度制限ある道路で、見透しはよいが夜間は暗い)と、これと北に通ずる幅員四米の簡易舗装道路とが交差する三叉路附近である。なお右三叉路の西側の八田街道上には横断歩道がある。

(2)  被告小西は本件事故発生の三〇分程前にビールをコツプ一杯飲んだうえ、加害車を運転して八田街道を東進したが、当時は夜間のこととて交通量は余りなかつた。そこで、同被告は、道路端に設置されてあつた速度標識により、制限速度が四〇粁であることを了知していたにも拘らず、これを超えて、少くとも時速五五粁以上(加害車のスリツプ痕からすると、或は、優に六〇粁以上ではなかつたかとの疑念が存する)で、本件事故現場にさしかゝり、三叉路手前(西)の横断歩道附近で対向車とすれちがつた瞬間、加害車の前照燈により、始めて前方約一六米に被害車が、三叉路を北に向うべく右折態勢に入つてくるのを発見し、急ブレーキをかけ、ハンドルを左に切つたが及ばずして、加害車左前部を被害車に衝突させた。

思うに、自動車運転者として、前示の如く速度制限のある道路を進行するについては右制限速度を遵守するは勿論、夜間暗い三叉路に進入するに際しては前方注視を怠らず、要すれば徐行して、自己の進路上に右折し来るべき車両を早期に発見し、その動静に応じて機宜の処置を採り、以て、右折車との衝突事故を未然に防止すべき注意義務があること当然である。しかるに、被告小西は、これを怠り、前記制限速度を著しく超過した高速度で本件三叉路にさしかゝつたのみか、対向車のライトによつてその後方(加害車の進路前方)の見透しが妨げられていたにも拘わらず、前方に対する注視をおろそかにしたまゝ、依然、同一速度で本件三叉路に進入したため、対向車とすれちがつた瞬間まで被害車に気付かず、したがつて、また、早期にこれを発見し急停車または右側方に避譲する等時宜に適した方法をとることができなかつたものというべく、後叙被害者の過失の点はともかくとして、被告小西に相当程度の過失が存したことは容易にこれを認めることができる。

尤も、前掲各証拠、前認定事実によると、被害者にも本件三叉路を右折するにつき過失が認められる。すなわち、被害者としては、前記状況下において三叉路を右折北進するに際し、特に、前方から直進し来る対向車の有無につき十分注意し、対向車の動静を確認し、右折を開始する義務があり、かつ、右折に際しては三叉路の中心の内側に直近を徐行する義務があるといわねばならない。しかるに、被害者は、何故か、対向直進車たる加害車の動静に注意を払わず、しかも、三叉路の中心より手前で右折しようとした重大な過失が存することは否定すべくもないところであり、畢竟、本件事故は、右両者の過失が相まつて発生したと断定しなければならないが、両者の右過失の割合は、前記説示したところによると、ほゞ半半と認めるのが相当である。

三、したがつて、被告小西は不法行為者として本件事故により原告らに与えた損害を賠償すべき義務があり、また、〔証拠略〕を総合すると、被告会社は被告小西の使用者であり、かつ、加害車は被告会社の所有に属することが認められるから、被告会社も亦、自賠法三条により右の損害賠償責任がある。

第二、損害額に対する判断

一、被害者の逸失利益

〔証拠略〕を総合すると、被害者は洞海産業株式会社四日市営業所に工員として勤務し、事故当時少くとも一ケ月平均四万五八八一円の給与及び一年に少くとも金三万〇二七五円の賞与合計年間金五八万〇八四七円の収入を得ていたことが認められる。

そして、〔証拠略〕に、総理府統計局発表の「昭和四〇年度家計調査年報」記載の年間平均支出額を総合すると、被害者の年間生活費は金一四万四〇〇〇円と推認するのが相当であるから、同人の年間純収益は金四三万六八四七円となる。そして、〔証拠略〕によると、被害者は当時五一才であつたことが明かであるところ、被害者の生活環境、健康状態及び職種に徴すると、同人は、その余命の範囲内たる六〇才までの九年間、十分に、稼働し得たものと推認し得る。そこで、これにホフマン式計算法を施し、本件事故発生当時の一時払額に換算すると、金三一七万九四五九円となるが、被害者の前記過失を斟酌し、これを金一五九万円に減額すべきである。

二、被害者の慰藉料

被害者が本件事故により突然生命を絶たれ、甚大な精神的苦痛を蒙つたものというべきであり、これが慰藉料は、原告が慰藉料算定の基礎として主張する事実に、本件事故の態様、当事者双方の過失の程度、その他諸般の事情を彼此斟酌すると金九〇万円とするのが相当である。

三、原告らと被害者の身分関係が原告主張のとおりであることは当事者間に争がないから、原告捨吉を除くその余の原告らは、被害者の妻ないしは子としてそれぞれの相続分に応じ、被害者の前記損害賠償債権合計二四九万円を承継取得したものというべきである。したがつて、右は、原告キクについては金八三万円、原告洋子、同寿々子、同教子、同邦夫については、各四一万五〇〇〇円宛となる。

四、原告らの固有の慰藉料

被害者の死亡により原告らがそれぞれ多大の精神的苦痛を蒙つたことは察するに余りがあり、その慰藉料は、前記二で説示したところと、この点につき原告の主張する事実関係を彼此参酌すると、原告キクについては金二〇万円、その余の原告ら五名については各金八万円宛とするのが相当である。

五、自賠責保険金の控除

本件事故に関し、自賠責保険金より金二六〇万三一三〇円の支払がなされたことは原告らの自認するところであるから、これを原告らの主張するところに従い、原告キクについては金八六万七七一〇円、原告洋子、同寿々子、同教子、同邦夫については各金四三万三八五五円宛(原告が「請求の趣旨減縮申立書」において各金三三万四一三三円と主張しているのは、明白なる誤算であると認められる)を控除すると、原告らの損害は、原告キクについては金一六万二二九〇円、原告洋子、同寿々子、同教子、同邦夫については各金六万一一四五円宛、原告捨吉については金八万円となる。

第三、結論

叙上説示の如く、原告らの本訴請求は被告ら各自に対し、原告キクにおいては金一六万二二九〇円、原告洋子、同寿々子、同教子、同邦夫においては各金六万一一四五円宛、原告捨吉においては金八万円並びに、いずれもこれに対する訴状送達の翌日たること記録上明白な、被告会社については昭和四二年一〇月二四日以降、被告小西については同月二三日以降各完済まで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は正当としてこれを認容すべきであるが、その余は失当として棄却すべく、民訴法九二条、九三条、一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 可知鴻平)

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